いろいろ面白い話があったので紹介してみます。


「絶世の美女」
おとぎ話や童話には必ず美女が登場する。それも、この世のものとは思えないほどの類まれな美貌に恵まれ、権力を握る男たちを支配になるほど絶大なのである。...中略
きっと昔の人々のかなわぬ夢や願望を体現したにすぎないのだ。
現実の歴史の上のことでも、事実というよりは記録、物語を面白くするための、誇張や虚構がふんだんに取り込まれているはずだ...


でも、ある日、サーカスに感動しない子どもたちを見て気づく。
子どもたちは幼いころからあまりにも多くの美しいもの、すごいものを日常的に見過ぎている。見飽きているほどに。テレビという現実模写能力を通して。
宇宙からの景色も、戦争の現場も、ジャングルの奥地も、そして美女も。
かつては一人の人間が一生に一度会えるか会えないほどの美女たちを、(より正確に言うと美女のコピーに)毎日何回も見ることができるのだから、感動や驚きがすり減っていかないほうがおかしい。
というわけで、「絶世の美女」はおそらく現実にも存在したのだ。テレビのなかった昔は。


「グルジアの居酒屋」
グルジアの首都トビリシに楽しい居酒屋があったのだが、1991年のソ連邦崩壊前後からグルジアでは国内の大小の民族間の紛争と野心家たちの権力闘争が絡まって外国人が行けるようなところではなくなってしまった。
10年後、戦火の爪痕も生々しいトビリシを訪れ、昔と変わらない居酒屋の掲示板に書かれてあったこと。


「飲酒が宗教を信仰するより優れている8つの理由」
1.未だ酒を飲まないというだけの理由で殺された者はいない。
2.飲む酒が違うというだけの理由で戦争が起った試しはない。
3.未成年に飲酒を強要することは法で禁じられている。
4.飲む酒の銘柄を変えたことで裏切り者呼ばわりされることはない。
5.しかるべき酒を飲まないというだけの理由で火あぶりや石責めの刑に処せられた者はいない。
6.次の酒の注文をするのに、2000年も待つ必要はない。
7.酒を売りさばくためにインチキな手段を講じるとちゃんと法で罰せられる。
8.酒を実際に飲んでいるということは、簡単に証明することができる。


この地帯を巻き込んだ凄惨な民族紛争の多くが宗教がらみだったことを、8箇条は雄弁に物語っていた。


「夏休みの宿題」
著者は小学校3年のときから5年間、プラハのソビエト学校で過ごしている。
そこでの初めての夏休み、宿題がないことに驚く。
友人「エッ、日本は夏休みまで宿題があるの?どんな?」
中略
「そんなにたくさん?遊ぶ暇がないじゃないの。エッ、日記まで提出するの?変だよ。異常だ。日記って本来自分自身のために書くもの。他人に見せないからこそ自由きままに好き勝手なこと書けるのに。他人に見せる日記書いたら、もうひとつ裏日記つけなくちゃ。」


著者は最近のブログブームにこのときのことを思い出したという。


本来秘められてしかるべき私生活をつづった日記を公開するという現象は世界中を見渡しても、日本人だけに見られる特殊な傾向らしい。
おそらく、昔、宿題の絵日記を先生に提出するというわたしの話を聞いた学友たちがぶったまげたように、他国の人々にとっては、理解しにくい心情なのだろう。
もしかして、子ども時代に絵日記という他人に見せる日記を書くことを習慣づけられたせいで、日記公開という世界的にもまれな集団的減少を生んだのか。それとも、もともと日本人にあった、日記露出癖が夏休みの絵日記という宿題を生んだのか、定かではない。


どのエッセイも面白い視点で書いてあって、かつ話題のジャンルが広い。
この先、彼女の新作を読むことができないということは、あまりにも残念なことだと思う。


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ガセネッタ&シモネッタ / 米原万理  


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